レスト・フェザーズの店主が半ば強引に連れてきてくれたのは宿屋に隣接している鍛冶工房だった。
先ほどの小綺麗に整頓された宿屋とは相対的な印象の無骨な工房。
来る途中で自己紹介をしてくれて、彼は『ガレフ』という名前で巨人族だから体が大きいらしい。
「気になった武器は手に取ってええぞ!!ケガせんようにな!!」」
どうも、と軽く礼を言えばガレフはそのまま工房の奥へ姿を消してしまった。
たまに王国軍からも武器の依頼が来ると言っていたが確かに一冒険者である自分にもわかるほど見た目も質も高そうなものだとは思う。
そんな武器の工房に置き去りにして作った武器を盗まれるかもしれないとか思わないのだろうか……。
そんなことを思いながら並べられた武器を眺めていると工房の入り口から声がした。
「戻りました。……ガレフ?」
扉を開けた薄い色の長い髪が印象的な女性は自分を見つけると会釈をしてくれた。
いきなり現れた美人にドギマギしていると、その人は流れるような所作で胸の前に手を置いて丁寧な動きでお辞儀をする。
「私はエリテューシア・ナアム・リウォルツィートューユと申します。ここの宿屋を亭主とともに営んでおります。どうぞエティシア、とお呼びください」
あ、どうも…と合わせて挨拶をしたがどうにも頭が混乱している。
失礼な考えなのは十分承知しているのだが、あの声の大きい人のお嫁さん……?
こんなに綺麗な人が???
嘘だろ?????
小さな頃に読んだ『魔物とうつくしい姫君』みたいな話が現実に存在することに驚いている。
「武器の調達でしたか?」
心ゆくまで選んでくださいね、そう言われてここに来た目的をハッと思い出した。
そのまま立ち去りそうなエティシアさんにサンドイッチがおいしいと聞いて食べに来たことを告げる。
彼女は少しだけ驚いた顔をしてからふわりと笑ってくれた。
「光栄です。ただ1つ、謝らなければならないことがあります」
これはもしや。嫌な予感がする……。
大体こういう時の当たらないでほしい予感ほど当たるもんだと相場は決まっている。
「最近の暑さのせいでサンドイッチに使うトールト鳥が仕入れできずサンドイッチが作れないのです」
で す よ ね ー !!!
こうして昼飯を食いっぱぐれた哀れな冒険者の俺は泣く泣く宿屋を後にするのだった。
NEXT→5.情報ギルドというやつ
登場人 エティシア